髪を、切りました。
15センチ程でしょうか……思いきって。
スタジオジブリの映画「天空の城ラピュタ」。
主人公の女の子が、トレードマークの三つ編みヘアを敵対する相手から銃で撃たれ、ショートカットに。
映画では、主人公の女の子が仲間から「可哀そうに・・・」と抱きしめられるシーンがあります。
女性にとって髪は、言い表せない思いのこもる、大切なもの。
幼い頃からこの作品が好きで見ていた私。
髪型を変える時は、この主人公と同じくらいの決心がいるのです。
(大げさに聞こえるかもしれませんが……)
「何か月に一度」と、美容室に行くサイクルを決めている女性も多いようですが
私の場合は、インスピレーション。
仕事、対人関係、恋愛と、その時その瞬間に「いま、切ろう」
いえ、「いま、断ち切りたい」と衝動に駆られ、美容室に向かいます。
そうして気持ちが動くまでは、どれだけ髪の毛の量が多くなろうと、
根元が伸びていわゆる“プリン状態”になろうと、行かない質です。
それほど、私にとって髪を切る行為は、意味を持つもの。
だからこそ、美容室や美容師さんの空気感も重要なのです。
お世話になっているのは、子どもの頃からの行きつけの美容室。
店内に入った時の香り、音楽、空調といった環境そのものは、安定の居心地の良さ。
要望を伝えて、シャンプー台に誘われます。
シャンプーとトリートメントは、髪を切るための序章。
幸せの導入口なのか、はたまた、少し納得いかないモードに入るのかは
ここでの美容師さんの腕にかかっているのです。
今回の担当は、20歳の女性でした。
上はゆったりとしたニットに、下はスリムなパンツ。
長めなアッシュ系の髪は一つに結び、最近はやりの伊達メガネをかけています。
お洒落に気を使っていて、一方で清潔感も漂う姿。
シャンプーをしながらの他愛無い会話も、口数やタイミング、相槌のさじ加減が絶妙で、落ち着きます。
そうして迎えたトリートメント。
私の頭を包み込む彼女の華奢な指に、力が入ります。
そして、頭皮をマッサージ……
「ふぁぁぁ」と、思わず吐息を漏らしてしまいました。
マッサージ自体は、他の人もしてくれるのです。
ただ、朝から晩まで多くの人と接する美容師さん。
マッサージは、シャンプーやトリートメントからすれば、オプション的な存在です。
「疲れ」が伝わるような、指圧の弱い時も、仕方がないのかなと思います。
でも、彼女の指からは「それ」は感じませんでした。
強いんだけど、ただ力を込めているだけではなくて。
押しつけがましくない、側に寄り添って見守るような
「気持ち良くなりますように……」という思いの伝わる、マッサージ。
「気持ちいいです」
そう伝えると、彼女は控えめに「嬉しいです、励みになります」の言葉。
そして、取り繕ったりかっこつけたりすることもなく、穏やかにこう切り出しました。
「私たちは一日に多くの人の髪に触れるので、どうしても流れ作業になりがちだと思うんです。
でも、来てくださる人にとって、接客するスタッフとは1対1の関係なんですよね。
手を抜くと、すぐに分かっちゃうと思うんです。」
心が、震えました。
私が小学校1年生の頃に産声を上げたはずの彼女のことを、敬いました。
どの職業でも、そうですよね・・・
もっと言えば、仕事柄、テレビやラジオを見聞きしてくださる方を
目の前にする機会の少ない私にとっては、より胸に刺さる言葉でした。
もちろん、取材では直接お話しできますが
オンエアの時は自分の役割を見失う恐れのある仕事だと思うのです。
尊敬できる人というのは、年齢や経歴、著名度や実績だけではありませんね。
素敵な言葉をくれた御礼を伝えると、少し頬を赤らめて恥ずかしそうに笑う、6歳年下の女性を、心の底から尊敬します。
そうして、人の心根の清らかさや芯の強さに惹かれ、敬える。
そんな心の感度を保てている自分自身が好きですし、いまの環境にも感謝したいです。